どんなおじいさんだったのだろう

 午前中から墨田区まで出張買取。亡くなったおじいさんの本ということで、数日前に本棚をデジカメで撮影して買い取り依頼のメールをくれていた。この方法はなかなかいい。中には書名のわからない本もあるし、詳しい状態もわからないので、正確な金額の提示はできないけれど、出張するかどうかの判断材料にはなる。便利だ。今回も「エノケン」「市川雷蔵」などの文字がはっきり見えたので、喜んででかける。
 想像していたよりもたくさんあって、映画、笑芸、歌舞伎などおおよそ400点ほど買い取る。金額を伝えると「そんなに!」と喜ばれてしまった。「ランチ代くらいになればと思っていた」と言われてしまうが、例えば笑芸では「浅草六区エノケン、デン助、ムーランルージュ」で小さなコーナーができるくらいだし、映画も「原節子高峰秀子市川雷蔵大河内伝次郎、フィルムセンター」、他にも中原弓彦竹中労などもおさえてあって、「こういう本がうちの目録に欲しかった」と言いたくなるような本がたくさんあったのだから、やはり売り主が価値を知らないとわかっていても、安くは言えない。本当はこういう時に鬼にならないといけないのかもしれないけど。
 歌舞伎の本の取扱いはそのうちやめようと思っているので、100冊ほどの歌舞伎関連本は、途中神田で専門店に売る。想定していたよりも安かったが、まあ、これはこれでよし。 
 いい本が買えたなあ、と思う反面、もっと安く買えたのになあ、やっぱり甘いなあ、などと悶々とした気持ちで帰宅。
 夜、メールをチェックすると、売り主からこんなメールが。
「今日は、買取に来てくださり、ありがとうございました。昨日ほどの暑さではないにせよ、蒸し暑い中の作業になってしまい、本当に、すいませんでした。私は、少しでも高く買い取って欲しいと言うより、祖父が、長い時間を掛けて集めた本が、紙くずとして廃棄処分されるのが、何だか、寂しく、哀しく思えて、家の返却直前に、慌てて古本屋さんを検索しました。丁寧に、時間を掛けて、本を見てくださっている姿を見て、今回、うさぎ書林さんにお願いできて、良かった、と思いました。祖父も、本たちも、喜んでいると思います。
 本や古本を取り巻く環境は、厳しくなっているのかもしれませんが、これからも、頑張って下さい。祖父の本たちが、うさぎ書林さんから、映画の好きな人のところへ、無事、旅立っていけますように・・・。」
 深夜、荷をほどき、本を拭きはじめる。